An Introduction to Systems Biology: Design Principles of Biological Circuits

 Uri Alon (著)  (Amazon.co.jp

 著者のUri Alonは、この分野で非常に精力的に研究を進めている研究者の一人であり、僕も多く参考にしている。現役の研究者だけに取り上げる問題もホットだ。
 Systems Biologyとは、多細胞生物や単細胞の個体といった高次なレベルでの生命現象がDNAやRNAやタンパク質など様々な分子のダイナミックな働きによりどのように生み出されているのかを主としてコンピュータシミュレーションを用いて明らかにしようとする研究分野である。Systems Biologyというと多細胞生物の発生なども研究対象に含まれるが、この本で扱っている内容は、発生やシグナルネットワークについて触れられてもいるが、主として細胞内の転写ネットワークについてである。しかし、転写ネットワークは個々の遺伝子の発現制御から細胞全体のレベルでの発現制御まで幅広いレベルを取り扱うのでSystems Biologyなかでも主要なトピックの一つだと思う。
 この本では、個々の遺伝子発現制御から始まり、近年注目されているネットワークの局所的な部分構造であるNetwork motifの性質についてかなり詳しく書かれている、また分子的なノイズに対して生命が頑健な性質を示すメカニズム、最適なネットワーク構造、遺伝子制御に対する自然選択などについての記述がある。転写ネットワークについての話が中心ではあるが生物内のネットワークについて興味のある人にとっては非常に有用だろう。
 英語の文章が非常にわかりやすく、複雑な数学の知識は必要ない(学部理系程度)と思うので、これから学ぼうという初学者にもお勧めできる。非常に良い本だと思う。