ゲド戦記

 この映画は観終わってから時間が経つにつれて、心の中のむしろ存在感が増してくるような気がする。原作同様味わい深い作品になっていると思う。
 絵的には、吾郎監督の監督日誌にも書いてあったように、線がシンプルで美しい背景が印象的だった。今回は線をシンプルにすることで作品の中で「言葉」が果たす役割を大きくしているようだ。「言葉」はゲド戦記の世界では重要な意味を持つ、そのことも反映しているのだろう。また、線はシンプルだけど、色の表現はなにかしら深い洞察から出ているような印象だった。
 映画化にあたってどのように原作をアレンジするのか興味があったのだけど、結構思い切ったアレンジをしていた。内容的には3巻が主体ではあるけれど、4〜5巻の内容も含んでおり、3巻以前の内容も含みを持たせて表現されていた。また、他の人の感想を読んで気がついたのですが「光」と「影」が逆転して描かれていたんですね。うーむ、感心。(なんのことでしょう?)
 映画を観ながら思ったのは、この映画はキャラクターの瞳をよく描いているなということだった。瞳孔と虹彩の形の変化や色の変化で感情や場面を良く表現していた。特に虹彩の色の変化は良い効果を持っていたと思う。全体的に登場人物達の視線が印象的でした。
 また、父親である宮崎駿作品へのオマージュがちょこちょこと出てきて微笑ましかったです。劇中おもわずお前はルパンかよ!と叫びそうになった。
 夏休みということもあって子供が多かったのですが、子供達の感想を聞いてみたいと思う。少なくともこの映画は物心ついてそれなりに物事を考えるような年頃じゃないと観れないと思う。小さい子は野性的である意味単なる動物なので生きるとは?みたいなことは考えてないので、ゲド戦記のテーマが理解できるはずがない。でも小学生の後半くらいの子だったら、わかる子はわかりそうだ。隣に小学校4年生くらいの男の子がいたのだけど、おとなしく集中して観ているみたいだったので、子供が観てもつまらないわけではないみたいだ。ただ所々子供にはわからないであろう単語が出てきていたりするので、親と一緒に観て観終わった後に親と色々話しをするのが良さそうな気がした。割と教育的なアニメになりそう。
 2時間程の映画だったけれど割とすぐ観終わった感じがしたのは、観ながら色々考えていたからだろう。そのためきっと見逃していることもあるような気がする。後から思い出してみると、色々見所が多かったような気がして来た。人をそういう気分にさせる味わい深さをこの作品は持っているように思う。